中国の文化を理解し、現地化を行うことが肝心です

2002年10月121号

中国の文化を理解し、現地化を行うことが肝心です

上海平野磁気有限公司

董事長  平野 信幸(ひらの のぶゆき)氏

プロフィール
平野 信幸 1951年 5月13日 平戸市出身 51歳
1972年 名古屋電気通信工学院卒業
佐世保工業高校OB
1981年 日本で創業
1993年 中国進出
1994年 開業現在に至る
趣味:料理
家族:妻、娘(大学生):東京在住
● 一番難しい形での進出でした
~中国進出のきっかけを教えてください。
??????中国で仕事をしようとしたきっかけは、以前、日本で経営していた会社で働いていた留学生が上海に帰って独立したことです。当時、中国との仕事の絡みがあった関係で、興味を持っていたので、自然な形で彼をサポートするようになりました。当然、会社としてサポートするには不安でしたので、個人的にサポートをしたのが最初です。
??????94年にアドバイザーとして董事長に就任。上海平野磁気有限公司として正式にスタートしました。当時はまだ民間資本の企業が認可されてなく、当社が94年7月の許可後、上海で3社目の民間企業としてスタートしました。留学生との信頼関係での事業スタートです。今思えば一番難しい形での事業展開でした。
??????運も良かったと思います。一般的に、日本に通訳として働いていた人間を中国でのパートナーとして仕事をする場合、97~98%は失敗するんじゃないか?と個人的には思っています。日本語が話せるからといって、ビジネスのセンスがあるわけではありませんからね。しかし、彼にはセンスがあった。もちろん、それ以外にも国民性などの違いで問題点も多いですから、時間をかけて理解していったのも、うまくいった原因だと思っています。
● 中国は「焼き畑」です
~中国ビジネスの面白さについて教えてください。
??????中国は「焼き畑」だと思うんです。文化大革命で一斉に焼き払われて、新しい芽が出やすい状態なんです。もちろんその中には雑草や悪い木も沢山生えてきていますが、何にも遮られずにいいものが育ちやすいのも事実です。逆に日本は?というと、寄らば大樹の影で大手に社会を押さえられていて、新しいものが育ちにくい環境です。実際に、今の日本には魅力が感じられませんね。日本に帰っても、上海で得た元気を吸い取られてしまうような錯覚すらおぼえます。
??????今の上海は日本の1980年代のバブル前夜と同じような臭いがします。あのころは何をやってもうまくいった。それと同じことが今の中国では言えると思うんです。夢が見れるんですね。実際に、私の周りでビジネスをしている経営者は生き生きしていますし。
??????また、今は、多くの外資企業が既に進出してきていますから、私が進出した頃にくらべたら、情報収集や材料調達なども容易になってきています。ビジネスを行うメリットがある程度確立されてやりやすい環境というのも、面白さを際立たせていると思いますよ。
● 不正確な情報に踊らされてはいけません
~中国進出における注意点を教えてください。
??????日本での「中国の情報」には古すぎて間違ったものが多く見うけられますね。1995年以前と今の情報の違いは、日本の江戸時代と明治維新後の違いほどあると思います。以前とは全く違った国として認識することが必要です。
??????例えば、独資での進出がブームになっていることについてもそうです。過去に合弁方式で失敗した企業からの「中国人は日本人をだます」とか「会社を乗っ取られた」といった情報によって、「合弁イコール悪」的なイメージができあがってしまっているように思います。確かに、だます悪い中国人がいるのも事実です。しかし、ここは中国。郷に入っては郷に従えではないですが、中国独自の商習慣や文化風習の違いなどを重視する必要があります。それを軽視し、日本の論理で経営を行った企業に失敗が多い。日系企業の方に問題がある場合が多いということを知る必要があります。不正確な情報に踊らされることは危険です。
● はたして「独資」がいいのか?
~では独資と合弁ではどちらがいいと思われますか?
??????私は、「はたして独資がいいのか?」という疑問を持っています。合弁で失敗した企業が失敗から学んで、独資で成功する。それならわかりますが、何も知らない企業が、「独資のほうがいい」と聞いたというだけで独資を選ぶのは危険だと思いますね。
??????中国でのビジネス成功にはローカルの人間の管理が必要不可欠なんです。税務ひとつとっても、日本人が単独で乗り込んできて分かるはずがない。目隠しして6車線の道路を横断するようなもんですよ。そりゃ、たまたまうまくいくかもしれない。しかしそんなのは稀。「現地化」を図る覚悟で、合弁形式で進出し、じっくりとローカルスタッフと信頼関係を作り上げて、「お任せします」というスタンスで取り組んだほうが将来的にはうまくいくと私は考えます。4,5年は生みの苦しみを味わうことも必要ですよ。ここは日本じゃないんだから。
??????コンサルタントなども、今盛んに独資形式を勧めているようですが、それを鵜呑みにするのもどうかと思います。彼らだって商売ですからね。はやってるほうを勧めるのは当たり前。進出を相談すれば、成功しようが失敗しようが話を進めていきます。その後の結果は進出企業の自己責任ですからね。乗せられて、自分の方向性を見失わないように注意が必要です。もちろん、コンサルを否定している訳ではありません。その企業にあった形態をじっくり考えることが必要であるということです。じゃあ、「あなたがコンサルをすればいいじゃないか!」と良く言われますが、それはしません(笑)。商売にしてしまえば見る目が曇って、本当の姿が見えなくなってしまいそうですからね。
● 中国のルールに従うべきです
~進出後のビジネスのコツについて教えてください。
??????資金回収をみなさん気にしますよね。確かに回収不能に陥ったという話は良く聞きます。私は今まで回収でのトラブルは殆どありません。1度だけありましたが、相手は日本人でした(笑)。何度もいいますが、ここは中国です。中国独特の商習慣があるわけで、それに従うべきです。例えば、我が社は製造業ですが、中国のルールでは、前金として50%の金額を持って取引先が買いに来るのが一般的なんです。例えば、原価が45%ならば既にここで5%儲けているわけですよ。もし相手がのこりの50%払わないのなら商品を渡さなければいい。要は、お金を持ってでも買いに来させるぐらいの仕事をしていれば回収不能には陥らないということです。日系企業にはそれだけの技術があるわけですからこれは、我が社に限ったことではない。
??????それと様々なところから情報を収集することを忘れてはいけません。生の情報を複数のルートから集めることが必要です。外国なので、情報収集が難しいのは事実です。しかし難しいからといって、さきほどのコンサルの話と同様で、ひとつの情報を総てであるかのように受け取ってしまってはいけません。外国だからこそ慎重に情報収集しなければならないのです。「合弁形態」がいいと言ったのも、情報が入りやすいという意味で有利だからです。
● 「私と仕事をすることは楽しい」と思わせる
~多くの日系企業が人材で苦労していますよね。
??????そうですね。ローカルスタッフは仕事をおぼえるとすぐに給料のいいところに転職するというのが一般論です。確かにその傾向は強い。そこをいかに引き留めるか?というのが肝心です。私が注意しているのは、ローカルスタッフに技術にしても、知識にしても、経営センスにしても常に「この日本人についていたら得するんじゃないか?」と思わせることです。「私と仕事をすることは楽しい」と思わせるよう努力しています。いくら信頼関係が築かれていても、得るものがなくなってしまうと彼らは離れていってしまいます。長く付き合うには、こういった努力も必要なんですよ。
??????また、進出してくる際にも言えることですが、「不退転の覚悟」だとか「企業の存亡をかけて」などとは決っして言ってはいけません。これは中国では通用しません。弱みを見せてはダメ。そんなこと言ったら彼らの言いなりにさせられてしまいます。きつくてもどっしりと余裕を見せておくことが肝心です。
??????また、日本人スタッフの扱いにも注意が必要です。例えば待遇や住居についても、スタッフにやる気を出させるだけのものを提供しなければならないと思います。良くない待遇を与えて、辛抱を強いられて業務をすれば良い仕事なんてできなくなりますよ。
● 技術流出なんて、ほんのお返しですよ(笑)
~今後の中国とのつき合い方についてお考えを教えてください。
??????今や中国企業の日本進出が始まろうとしています。今後、日本での生き残りを考えるのなら、日系企業が中国企業の下請けをすることもあるということを頭に入れておかねばなりません。実際に一部の力を持った中国企業から、日本に「日本の人材を利用した研究所」を開きたいという話も出ているようです。それだけ、日本人の存在価値を認めているということでしょう。

??????技術流出を恐れて展開が遅いというのが、日系企業の常ですが、そのお陰で日系企業はあまりシェアを伸ばせないでいます。逆に欧米企業は惜しみない技術提供で現地化を図って急速にシェアを伸ばしてきました。全く欧米を真似しろとは言いませんが、見習うことも必要だと思います。まあ、欧米は過去200年以上に渡って、様々な地域で事業展開をしてきた歴史があります。まだ20年そこそこの日本には難しい話ではありますけれど???
??????中国には、漢字をはじめとした文化を2000年間に亘ってもらっているんです。逆転したのはここ100年の話。技術の流出なんてものは、ほんのお返しですよ(笑)。
● 20年、30年先の自分の姿を思い描いて
~今後進出を目指している企業に一言お願いいたします。
??????日本のスタンダードでものを語らないことです。日本の常識は世界の非常識ですよ。とにかく中国の文化を理解すること。中国で働かしていただくと言う気持ちで望むべきです。中国でビジネスをしていれば、日本よりもはるかに修羅場を経験しますし、足下をすくおうとしている人もたくさんいます。日本の論理でいくと痛い目にあいます。真摯な気持ちでいるべきです。
??????また、進出をするからには、利益を出さなければいけません。進出してしまえばそれで終わりではない。20年後、30年後の自分の姿を思い描いて、進出し、経営していかねばならないことを忘れてはいけません。
??????日系企業にはお金と技術はあるんです。それをひっさげて、以上のことに注意して望めば自ずと道は開けますよ。
~ありがとうございました。
?上海平野磁気有限公司?
2002年4月 現在
資本金:$120,000(100万中国人民元)
設立:1994年8月18日
役員 董事長  平野 信幸
董事兼総経理   呂振
副総経理     越迫 和広
従 業 員   50名
(日本人3名、中国人47名 内女子7名)
本社?工場
中国?上海市普陀区同普路1225号 長征工業区7号楼
TEL:86-21-3202-3315
FAX:86-21-3202-3314
東京事務所?東京都豊島区東池袋 2-54-2 203号
TEL:81-03-5992-7141
FAX:81-03-5992-7145
合弁会社 上海瑞穂磁気有限公司(資本金US$250,000-)
日本出資企業:日本電磁測器株式会社
中国出資企業:上海平野磁気有限公司
工場敷地面積:1400㎡

事業概要
1.着磁電源装置の製造?販売
2.磁気測定装置?解析装置の製造?販売
3.製造ライン冶工具の設計?開発
4.電器機器?磁気応用製品の受託生産
5.25年以上の経験による磁気応用製品の開発支援
主な取引先
松下電器産業(グループ各社)?三洋電機?パイオニア?日本電産ミネベア?日立製作所?自動車電機?栃木カネカ?日本電磁測器(順不同?敬称略)
主な輸出先
日本?タイ?マレーシア?シンガポール?フィリッピン?台湾
合弁企業
上海瑞穂磁気有限公司(日本側出資企業-日本電磁測器㈱)

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